【京都】朝日新聞記者が振り返るこの１年　犯罪、他人事ではない

担架に乗せられたまま、出廷する人を初めて見た。白いシーツのような布で胸元まで覆われ、仰向けの姿勢で天井を向き続ける。まるで病室の一場面だった。

　半年前、京都アニメーション第1スタジオ（京都市伏見区）の放火殺人事件で逮捕された青葉真司被告（42）の勾留理由を開示する手続きを傍聴した。「青葉真司です」「無職です」――。ごくわずかではあったが、本人の言葉を直接聞けた意義を受け止めたい。

　事件では36人が犠牲となり、30人超が重軽傷を負った。青葉被告自身も全身の93%にやけどを負い、一時は命の危機もあったが、手術や治療などで回復。逮捕後には、医療態勢の整った大阪拘置所に移送される異例の手続きがとられた。

　SNS上などでは「なぜ容疑者を手厚く治療するのか」といった声もあった。今も治療を続けている被害者はいる。容疑者より被害者の命を優先すべきだ、という心情は理解できる。

　ただ、事件直後、青葉被告を治療した担当医は「どんな理由があっても人の命を奪うことは許されない。罪があるなら、それに向き合って償うべきなんじゃないか」と言った。事件の真相が解明されることを願う遺族もいた。それだけ、裁判に託された期待は大きい。

　この1年余り、SNSで知り合った人と実際に会い、事件に巻き込まれたとみられるケースも相次いだ。難病の筋萎縮性側索硬化症（ALS）の女性に対する嘱託殺人事件や、下京区の市営住宅で20代女性が殺害された事件もそうだ。身元を明かさずにやりとりできる半面、そのリスクも顕在化している。

　SNSとの共存は喫緊の課題だ。実生活で薄くなった人間関係を、刹那（せつな）的なつながりで補っているように映る。限られた字面では表層しか見えず、その人となりを肌で感じるのは難しい。それゆえに、SNSを発端とした犯罪はためらいがなく、加速度的なのではないだろうか。SNSが当たり前になり、自分や大切な家族、知人らが巻き込まれる可能性も高い。他人事で終わらせてはいけない。（高木智也）

朝日新聞デジタル 2020年12月28日 10時00分
https://www.asahi.com/articles/ASNDW6SV3NCZPLZB017.html

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