十年巻き戻って、十歳からやり直した感想

1 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:20:55.012 ID:CcaXgiGy0XMAS
これは多分、君が想像してるのとは、
正反対の話になるんだと思う。

だって、二十歳の記憶を持ったまま、
十歳の時点に戻ってやり直せるとしたら、
普通、その記憶を利用して色々するだろう?

一周目の反省や教訓を活かして、
もっと優れた二周目を目指すはずだ。

でも僕がしたことと言えば、
まさにその正反対のことだったんだ。
今思うと、馬鹿なことをしたと思うよ。本当に。

2 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:21:24.338 ID:CcaXgiGy0XMAS
自分の人生が十年巻き戻されたことを知ったとき、
僕は思ったよ、「なんて余計なことをするんだ!」ってね。

というのも、僕は自分の人生が気に入っていたんだ。
可愛い恋人がいて、友人にも恵まれていて、
まあまあの大学に通っていて、前途洋々でさ。

人生をやり直すチャンスってのは、もうちょっと、
自分の人生に心底絶望しきってるような、
そういう人に与えられるべきだったんだと思うよ。

それで、僕は余計なことを思いついちゃったんだ。

3 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:21:40.265 ID:CcaXgiGy0XMAS
僕が思いついたことと言うのは、一周目の人生を、
二周目でも、そのままやり直そうということだった。

自分がこれから犯す間違いが分かっていても、
あえて全部、そのまま繰り返そうって思ったんだ。
十年分の巻き戻しを、まったく無意味にしてやろうってわけ。

これから起こる事件や災害、危機や変革のことも
大体頭に入っていたけど、僕は口をつぐむことにした。
とにかく、徹底的に一周目を模倣しようとしたんだよ。

4 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:21:55.698 ID:CcaXgiGy0XMAS
二周目の人生は、ちょうど十歳のクリスマスから始まった。

僕がそれに気付けたのは、枕元に置いてあった、
スーパーファミコンの入った紙袋のおかげだったんだ。
当時はそれが欲しくて仕方なかったんだよ。

紙袋の中には、一緒にゲームソフトも入っていた。
そのゲームの言い方を借りれば、僕の人生は、
『つよくてニューゲーム』にあたるわけだな。

結露した窓をパジャマの袖でこすって外を見ると、
まだうす暗く、雪に覆われた街が一望できた。
かなり寒いはずなんだけど、子供の体は温かかったな。

5 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:22:10.672 ID:CcaXgiGy0XMAS
僕が紙袋をごそごそやっていたせいで、
二段ベッドの下で寝ていた妹が、目を覚ました。
妹は眠たげな目で枕元のテディベアを眺めて、
少し遅れて、「わあー」と歓声をあげた。

僕ははしごを下りて、妹のベッドに腰掛け、
テディベアに夢中な妹に、「なあ」と話しかけた。

「兄ちゃんは、十年後から戻ってきたんだよ」

妹は寝ぼけた様子で、「おかえりー」と笑った。
僕はなんだかそれが気に入っちゃって、
「ただいま」と言って妹の頭を撫でた。
妹は不思議そうな顔で僕の顔を見つめた。

6 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:22:29.836 ID:CcaXgiGy0XMAS
僕は自分の最高の思い付きを誰かに披露したくて、
目の前にいる七歳の妹に、こう言った。

「今の僕には、これから自分が犯す過ちだとか、
本当にやるべきことというのが、分かるんだ。
今からなら、神童にだって、予言者にだってなれる。

でも、僕はなにひとつ変える気がないんだ。
前と同じ人生を送られれば、それだけで十分だからね」

テディベアを抱えた妹は、僕の顔をぼうっと見つめて、
「よくわかんない」と正直なところを答えた。

7 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:22:52.889 ID:CcaXgiGy0XMAS
一周目の再現に関して、僕は妥協しなかった。

周りの連中をコケにしたくなるのを我慢して我慢して、
わざわざ一周目と同じ事故に遭いさえしたんだ。
何をするにも、手を抜くことに真剣だったね。

我ながら、僕はよくがんばった方だと思うよ。
それでも、蝶の羽ばたきひとつ程度の違いで、
人生ってやつは、かなり変わってしまうものらしい。

二周目に入って五年も経つ頃には、僕の人生は、
一周目のそれとは、大きく様変わりしていたんだ。

8 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:23:09.122 ID:CcaXgiGy0XMAS
何から話せばいいかも分からないけど、
とにかく、一から十まで変わってしまったんだ。

一言でいうとね、僕は、落ちぶれたんだ。
一周目の人生からは、とても考えられないほどに。

理由は後で詳しく説明するけど、一例を挙げると、
一周目で親友だった人物にいじめられたり、
一周目で恋人だった女の子にふられたり、
一周目で通っていた高校の受験に失敗したり。

奇跡的な悪循環が生じたわけだよ。

9 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:23:23.105 ID:CcaXgiGy0XMAS
そんなこんなで、高校生になる頃には、
僕はすっかり暗い人間になってしまっていた。

志望校には落ちて、ろくでもない高校に入って、
芽生えかけていた人間嫌いに磨きがかかってさ。
絵に描いたような孤独な人間になったんだ。

だから二周目の高校時代の思い出ってのは、
ほとんどないんだ。卒業アルバムも捨てちゃった。
寂しいもんだよ。修学旅行さえ苦痛だったんだ。

10 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:23:37.707 ID:CcaXgiGy0XMAS
でも、ひとつだけ、悪くない思い出がある。

高校二年生の冬、ひどい吹雪の日だったな、
僕はがたがた震えながらバスを待ってたんだ。

その時、僕はふと、少し離れた場所で
僕と同じようにバスを待っている女の子が、
見たことのある顔だってことに気付いた。

いや、忘れるはずもないんだ。
それは一周目では僕の恋人だった女の子だ。
十五歳で付き合い始めてからは、ずっと傍にいたんだ。

それが、二周目では、あっさり告白を断られてさ。
思えば、悪循環の始まりはそこだった気もする。

11 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:24:07.407 ID:CcaXgiGy0XMAS
向こうは、僕に気付いてないみたいに見えた。
そうでなくても、僕の存在なんて、
とうの昔に忘れちゃってたかもしれない。

それでも僕の目には、寒さに震える彼女が、
なんだか寂しそうに見えて――隣に誰か、
温かい存在を必要としているように見えたんだ。

いやあ、実に自分に都合のいい想像だよ。
それでも僕は幸せだった。だってさ、
自分が必要とされている気がしたんだ。

あの子にはやっぱり僕が必要なんだって、
幸せな勘違いをすることができたんだ

12 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:24:26.856 ID:CcaXgiGy0XMAS
生きる気力をすっかり失っていた僕だったけど、
かつての幸せな日々を取り戻したくて、
彼女と同じ大学へ行くために猛勉強した。

おかげで僕の学力は最後まで伸び続けて、
一周目で通っていた大学に、無事合格できた。
悪くない気分だったな。奇跡みたいだったよ。

そこまではいい。そこまでは良かったんだよ。

入学式が終わって、僕は彼女の姿を捜し回って、
ついに見つけ出したわけなんだけど、
むしろ、そっからが問題なんだ。

13 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:24:44.739 ID:CcaXgiGy0XMAS
体温が三度くらい下がった気がしたね。

かつての恋人が、知らない男と腕を組んで歩いている。
それだけなら、まだ我慢することができたかもしれない。

でも、その男と言うのが、どこからどう見ても、
一周目の僕にそっくりだとなると、さすがに話は違ってくる。

僕のかつての恋人の隣を歩いている男は、
背格好、仕草、声、喋り方、表情の作り方、
どこをとっても、一周目の僕と瓜二つなんだ。

ドッペルゲンガー、という言葉が僕の頭に浮かんだ。

14 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:24:55.455 ID:xGpAtmsa0XMAS
くさい
15 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:25:00.882 ID:CcaXgiGy0XMAS
二周目の僕は、一周目の僕と比べると、
身長は四センチ小さかったし、体重は十キロ軽く、
比べ物にならないくらい表情が暗くなっていた。

仮に一周目の人生を正確に再現できていたら、きっと、
目の前にいるその男みたいになれていたんだと思う。

どうりで僕が彼女と付き合えなかったわけだよ。
二周目では、僕の代役がいたんだ。

16 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:25:12.237 ID:dDRcGDpw0XMAS
なるほど

2周目がおまえらそのものだってか?

クッパ

17 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:25:22.127 ID:CcaXgiGy0XMAS
誰かに対して敵意を抱いたのは、久しぶりだったね。

『おい、違うだろ、それは僕の役だろうが!』って、
狂ったように頭の中で言いつづけていたと思う。

それからの数か月は本当に驚きっぱなしだったよ、
なにせ、かつての僕の大学生活というものを、
僕の分身が次々と正確に再現してみせたんだから。

それにしても、客観的に見ることで、あらためて、
一周目の僕って幸せだったんだなあって思ったよ。
そのくせ嫌味もないし、人に親切だし。

18 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:25:38.354 ID:CcaXgiGy0XMAS
秋頃になって、僕の頭の中で何かが切れた。

その頃になると、僕はほぼ引きこもりになっていて、
ほとんど大学には行かず、一日中安酒を飲んで、
ろくに食事もとらず、寝てばかりいたんだ。

このままじゃ発狂すると思ったね。
何をしていても、例のドッペルゲンガーと、
今の自分とを比較してしまうんだ。

そうすると、それまで当たり前だったことさえ、
急に耐えられなくなっちゃうんだよ。

19 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:25:52.008 ID:CcaXgiGy0XMAS
変なところで、僕は冷静だったんだよ。
今の自分が、彼女にふさわしい男ではなくて、
分身に勝てないことは、重々承知していたんだ。

でも、その上で考えたやり方と言うのは、
とても正気の沙汰とは思えなかったね。

つまり僕は、僕の代役を務めるあの男を、
ぶっ殺してしまおうと思ったわけなんだ。

そしたらあの子も、また寂しくなって、
僕の方に傾くんじゃないか、ってね。

いやあ、追い詰められた人間ってのは、
本当にろくなことを考えないよ。視野が狭くて。

20 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:26:08.530 ID:CcaXgiGy0XMAS
そういうわけで、僕の恋人奪還作戦が始まった。
別の言い方をすれば、ドッペルゲンガー殺害計画。

以後、僕は定期的にその男を尾行するように
なったんだけど、おかげで引きこもりが治ってさ。
皮肉なことに、殺害計画を思いついてから、
しばらく僕の性格はとっても明るくなるんだよ。

妹に指摘されて、僕は自分の変化に気付いたんだけど、
――そう、すっかり妹の話を忘れていた。
僕に匹敵するくらいの変化を遂げた妹の話。

21 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:26:26.744 ID:eJKfiyYu0XMAS
どこで読んだっけかな
22 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:26:26.769 ID:CcaXgiGy0XMAS
本来、僕の妹は、運動と太陽をこよなく愛していて、
年中健康的に日焼けしている、活発な女の子だった。

ところが二周目においては、僕の影響を受けたのか、
読書と日陰を好む、色白の眼鏡の子になったんだ。

一周目を知る人から見たら、何かの冗談みたいだよ。

兄妹揃って暗い人間になって、家は毎晩お通夜みたいだったな。
両親も自分に自信がなくなったのか、嫌な人間になっていった。
いやあ、人一人の持つ影響力ってのは、馬鹿にならないね。

23 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:26:28.113 ID:q8BzgXdb0XMAS
すごい懐かしい
なんだっけこいつのハンドルネーム
24 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:26:46.293 ID:CcaXgiGy0XMAS
かつて僕と妹は、周りがあきれるくらい仲良しで、
僕に恋人ができるまでは、どこへ行くにも一緒だった。

でも二周目では、口をきかないどころか、
目さえ合わせようとしなかったね、お互いに。

妹は僕のことを嫌っていたんじゃないかな。
だって、たまに珍しく口を開いたかと思えば、
それは大抵、僕に対する文句だったからね。
「目つき悪い」とか。人のこと言えないだろ。

いやあ、実に悲しいもんだったよ。
娘に嫌われた父親って、こんな気分なんじゃないかな。

25 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:26:47.201 ID:BAXlPM6D0XMAS
今北永井
26 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:27:01.282 ID:dDRcGDpw0XMAS
vipで小説書くなら
投稿サイトいけば?
ここだとアフィリエイトに使われちゃう
27 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:27:04.957 ID:CcaXgiGy0XMAS
ところが、僕がドッペルゲンガー殺害計画を立て、
嬉々として殺害方法を考えていた夜、その妹が、
一人で僕のアパートにやってきたんだ。

僕のことが大嫌いなはずの妹がだよ。

ちょうど、初雪が観測された日のことだったな。
あまりに寒いから、やむなくヒーターを点けて、
懐かしい感じのする灯油の匂いが部屋に満ちて、
そのとき、部屋の呼び鈴が鳴ったんだ。

制服にカーディガンを重ねただけの格好の妹は、
白い息を吐きながら、僕の目を見ずに言った。
「しばらく、ここに泊めてちょうだい」

28 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:27:06.898 ID:bnZvKcV60XMAS
古いのをわざわざコピペして再放送する意味って何だろうな
29 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:27:20.114 ID:CcaXgiGy0XMAS
本人はその言い方をしたがらなかったけど、
妹のしていることは、いわゆる「家出」だった。

らしくないことをするな、と僕は思ったな。
たとえ家に不満があっても、家出のような
意味のない行動に出るやつには見えなかったし。

「どうやってここまで来たんだ?」と僕がたずねると、
妹は「どうだっていいでしょう?」と模範解答をした。

「汚い部屋」と妹は言った。「趣味も悪いし」
「嫌なら出てけ」と僕も模範解答をした。

一周目の妹だったら、苦笑いしながら掃除して、
美味しい料理でも作ってくれたんだろうけど。

30 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:27:39.452 ID:q8BzgXdb0XMAS
SS全盛期の時だった気がする
昔の記憶を掘り起こされて鳥肌たったわ
31 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:27:49.843 ID:CcaXgiGy0XMAS
妹だって、僕のところに来たくはなかったはずだ。
友人の少ない妹には、他に行く当てもないから、
やむを得なくここに家出してきたんだろうな。

まだ冬休みも始まっていないだろうし、
そんなに長くは滞在しないとは思うけど、
さっさと出て行ってくれないかな、と僕は思った。

けれども妹に強く言う勇気もなかった。
二周目の僕はとことん臆病者なんだよ。
そして二周目の妹はちょっと怖いんだよ。

かくして、非常にぎすぎすした二人暮らしが始まったんだ。

32 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:27:54.341 ID:kdQ91Fe40XMAS
げんふうけい?
33 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:28:06.777 ID:CcaXgiGy0XMAS
翌朝の八時くらいに、妹は僕を揺り起した。
驚いてすっかり目が覚めてしまった僕に、
妹は「この街の図書館に連れてって」と言った。
それからちょっと間を置いて、「いますぐに」と付け足した。

二周目に入ってから、僕の睡眠時間は激増して、
十時間は眠らないと辛い体質になってしまっていた。
多分、起きてる時間が苦痛だからなんだろうけどさ。

それでも、相手が家出少女だろうと不登校児だろうと、
女の子に起こされるってのは、悪い気分じゃなかったね。
そういうのって、なんだかとっても人間的だよ。

34 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:28:15.647 ID:h7KePXK60XMAS
何回でも好きなだけ巻き戻せる能力があれば不老不死になれる!
35 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:28:22.269 ID:CcaXgiGy0XMAS
車に乗った妹の第一声が、「煙草くさい」だ。
そして後部座席を見て、「きたない」と言った。
「持主の性格が分かるね」とのこと。そいつはすごい。

空は曇っていて、辺りは薄い霧に覆われていた。
図書館へ向かう最中も妹は文句を言い通しで、
勝手に借りている僕のコートが煙草くさいとか、
何か音楽は流さないのかとか、好き勝手言っていた。

無視し続けたら、ティッシュの箱で叩いてきた。
「人の話はちゃんと聞きなさい」と言われた。ごもっともだ。
ちなみに図書館では、本選びに時間をかける妹に
「まだか」と聞いたら、「しゃべるな」と本で叩かれた。
二周目の妹ってのは、こんな感じなんだよ。

36 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:28:42.452 ID:CcaXgiGy0XMAS
妹は、僕の部屋で一日中本を読んで過ごすらしい。
僕が家を出て行こうとすると、妹は顔を上げて、
「おにいちゃん、大学行くの?」と聞いてきた。

「殺害したい相手の生活パターンを知りたいから、
ストーカーしに行くんだ」と言うわけにもいかないから、
僕は「そう、大学だよ。七時には帰る」と答えておいた。

今年中には、この問題に決着をつけたかったんだ。
ドッペルゲンガーと元恋人が共にクリスマスを過ごしたり
新年を迎えたりすることなんて、考えたくもなかったからね。

37 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:28:42.987 ID:dDRcGDpw0XMAS
妹がいるだけで勝ち組だと思うが
38 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:29:00.270 ID:CcaXgiGy0XMAS
その頃になると、殺害方法は既に決まっていて、
ドッペルゲンガーの行動様式も大体把握して、
実を言うと、とっくに行動に移っても良い頃合だったんだ。

それでも僕がだらだらと尾行を続けていたのは、
多分、踏ん切りがつかなかったからと思う。

つまり僕は、彼が欠点を晒してくれるのを待っていたんだな。
僕は、彼が死ぬべき人間だって思い込みたかったんだ。
56すに値する理由が、ほんの少しでも欲しかったんだよ。

困ったことに、数か月に渡ってあら探しを続けても、
彼は短所らしい短所をまったく見せないでいた。

どっちかと言うと、僕の方が死ぬべき人間なんだろうな。

39 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:29:16.152 ID:CcaXgiGy0XMAS
妹と図書館に行ってきた時に借りた本によると、
ドッペルゲンガーには、以下のような特徴があるらしい。

・周囲の人間と会話をしない。
・本人に関係のある場所に出現する。
・ドッペルゲンガーに出会った本人は死んでしまい、
 ドッペルゲンガーがオリジナルになってしまう。

ちょっと考えればわかることだけど、これらの特徴、
どちらかというと全て、僕の方に当てはまるんだよな。

友人のいない僕はめったに人と会話しないし、
同じ大学に通う僕らは出現場所が似ているし、
死ぬとしたら彼の方だし(僕が56すからね)、
向こうの方が見た目も中身も一周目の僕に近い。

これじゃあまるで、僕が偽物みたいじゃないか。

40 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:29:34.102 ID:CcaXgiGy0XMAS
友人がいないと言えばさ、一周目の僕は、
仲良く談笑できるくらいの相手は、大学中に、
控え目に見積もっても二百人はいたんだよ。

当時の僕は、そいつらが皆、癖こそあれ、
それぞれにいい所を持った奴に見えたんだけど、
今になって少し離れた場所から見ていると、
どいつもこいつも、ろくでなしのように見えたね。

自分と関係のある人間が良いやつに見えて、
関係のない人間が嫌な奴に見えるのは当前だけどさ、
変な話、そういうことに僕は慰められたんだよ。

ああ、少なくとも、一周目の僕は、全てにおいて
恵まれていたわけじゃなかったんだ、って思うとね。

惨めな話だよ、そんなことに喜びを感じるなんて。

41 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:29:47.566 ID:CcaXgiGy0XMAS
かつての友人たちが、一周目とは違う顔を
僕に見せるのは、なかなか興味深かったね。

優しいと思ってた奴が利己心の塊だったり、
謙虚だと思ってた奴が自己顕示欲の塊だったりさ。

ただ、これは僕の憶測だけど、一周目において、
僕が彼らのことを良い人間だと感じていたのは、
けっして勘違いではなかったと思うんだよ。

42 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:30:06.364 ID:CcaXgiGy0XMAS
人ってのは、極端に優れた人物を前にすると、
無意識にそいつの影響を受けてしまって、
一時的に良い人間になれるんじゃないかな。

一周目の僕を前にしているときに限定すれば、
おそらく彼らは、実際に良い人間だったんだよ。
逆に、今の僕みたいなのを前にすると、
肩の力を抜いて、安心して屑になれるんだ。

僕が何を言いたいかっていうとね、
相手が嫌な人間だと感じたら、その時点で、
少なからずこちらにも責任があるってわけさ。

43 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:30:24.658 ID:CcaXgiGy0XMAS
ただ、いくら自分と関係がなくなっても、
これっぽっちも魅力を減じないどころか、
ますます魅力を増すような人間もいたね。
まあ、もちろん、元恋人のことだけどさ。

手に入らないものほど欲しくなるってのもあるけど、
二周目の僕は、下手をすれば一周目の僕より、
更に彼女を好きになっていたように思うな。
うん、崇拝していたと言っても過言ではないね。

今こそ、今こそ人生をやり直すチャンスをくれよ、
そう僕は思った。今度こそ上手くやってみせるからさ。

僕は布団にもぐり、目を閉じて、その晩も祈る。
目が覚めたら三周目が始まっていますように。

44 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:30:52.424 ID:CcaXgiGy0XMAS
さて。妹が家出してきてから、五日が経過した。

さすがにそろそろ邪魔になってきたから、勇気を出して、「いつ頃帰る?」と聞いてみると、
「おにいちゃんが帰れ」と返された。僕が悪かったよ。

ちょうどその日、母親から電話があって、
妹がそちらに行っていないかと聞かれたから、
五日前から居座っていることを正直に話してやった。

そのことを妹に伝えると、彼女は「そっか」とだけ言い、
しばらくすると、荷物を丁寧にまとめ始めた。
こういうところは、異様にものわかりが良いんだよな。

45 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:31:06.975 ID:CcaXgiGy0XMAS
バスターミナルまでは見送ることにした。
雪が結構ひどくて、あまり街灯もない道で、
妹一人で行かせるには心配だったからね。

隣と呼んでいいのかどうか分からないくらいの
絶妙な距離を保ちながら歩く僕たちは、
あいかわらず、終始口をつぐんでいた。
一周目だったら、手を繋いで歩いてたとこだよ。

妹は、僕のことを恨んでるんじゃないかと思ったな。
まあ、とっくに嫌われてるからいいけどさ。
それに、これから人一人殺そうって人間が、
誰にどう思われるか一々気にしてたら、きりがないよ。

46 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:31:23.152 ID:CcaXgiGy0XMAS
バスターミナルの建物は老朽化してて、
壁や床はあちこち黒ずんで、蛍光灯は黄ばんで、
椅子のクッションは破れて中身が飛び出し、
売店には薄汚いシャッターが下りていた。

バスを待つ客も数人のみで、しんとしていた。
あまりにも陰鬱な感じがして、まるでここにいる皆が、
家出先から実家に帰るとこなんじゃないかって感じ。

「汚いところ」と妹は言った。「お兄ちゃんの部屋みたい」
「情緒があるよ」と僕は自分の部屋をフォローした。

47 名前:匿名のゴリラ 投稿日時:2019/12/25(水) 00:31:41.041 ID:CcaXgiGy0XMAS
僕と妹は、40cmくらい距離をとって椅子に座り、
カップ式自販機のココアを飲みながらバスを待った。

ひどい場所だったね。ここからバスに乗ったら、
昭和や大正に連れてかれるんじゃないかと思った。
まあ、本当にそうだとしたら、僕は進んで乗っただろうけどね。

僕がココアを飲み終えると、妹は「ん」と手を差出し、
僕のカップを自分のカップに重ね、捨てに行った。
すたすた歩く妹の背中を、僕は後ろから眺めていた。

一周目の妹と比べると、ずいぶん頼りない感じがしたな。

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