【新型コロナ】ロシア製ワクチンに「重大な懸念」 米国感染症研究所長

■米国新型コロナ対策の第一人者、ファウチ国立アレルギー感染症研究所長が見解

ロシアが新型コロナウイルスのワクチンを承認し、供給体制を整えているとのモスクワの報道に対し、米国で新型コロナ対策をけん引する国立アレルギー感染症研究所（NIAID）のアンソニー・ファウチ所長は、「ワクチンを作り上げることと、それが安全かつ有効であることを証明することは別」との見解を示した。

　これは、ナショナル ジオグラフィックが8月13日に独占放送したイベント「Stopping Pandemics（パンデミックを止める）」の基調インタビューの中で、ファウチ氏が発言したもの。

「ロシアが実際にワクチンの安全性と有効性を決定的に証明したのならよいですが」と、ファウチ氏は司会を務めたABCニュースのデボラ・ロバーツ記者に語った。「それは大変疑わしいと考えています」

ロシアはこの夏中、ワクチン候補の開発が急速に進んでいるとほのめかし続けてきた。このワクチン候補は、1960年にソ連が打ち上げた宇宙船にちなんで「スプートニクV」と名付けられた。5月にはワクチンの開発を行っているモスクワの国立ガマレヤ疫学・微生物学研究所の所長が、自分を含む研究員らが被験者となって同ワクチンの試験を開始したと述べ、その1カ月後には被験者76人を対象とする第1相臨床試験が開始された。

　しかし、臨床試験では通常3つの段階を踏んで医薬品の安全性、有効性、および最適な用量を確認するが、ガマレヤ研究所はいまだに臨床試験の結果を公表していない。また、動物モデルを用いた研究や、培養した細胞の実験についても一切発表はない。

このように情報公開がされていないにもかかわらず、ロシアのプーチン大統領は、同国の保健当局がこのワクチンの一般市民向け使用を承認したことを明らかにした。プーチン氏は8月11日の政府声明で、「我々は、この重要な第一歩を踏み出した人びとに感謝しなければならない。ロシアにとっても、全世界にとっても非常に重要な一歩だ」と述べている。

承認がなされた一方で、他のロシア官僚はまだ第3相試験の最中と話していた。同ワクチンの開発に融資しているロシア直接投資基金のキリル・ドミトリエフ総裁は、AP通信に対し、第3相試験が8月12日にロシア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、フィリピン、そしておそらくブラジルも含む数カ国で開始される予定だと語ったが、APによれば、ロシア保健省の記録にこうした試験が承認されたとの記述は見当たらない。

　第3相試験は、ワクチンを広く配布することができるかを検証するために不可欠である。この最終試験では、一般向けに最も安全な用量を正確に特定することになっており、数千人の多様なグループの人びとにワクチンを接種しなければその決定はできない。また、ワクチンにどれだけの効果があるのかも、この開発段階で判定される。

　米マサチューセッツ工科大学が2018年に行った調査によれば、推奨用量を確定し、安全性と有効性に関する確立された基準を満たして第3相試験を無事通過するワクチンは、3分の1しかない。米食品医薬品局は、有効性が50％未満の新型コロナワクチンは承認しないと述べている。

「すでに6、7種以上のワクチン候補が存在します」とファウチ氏はロバーツ氏に答えた。「多くの人を傷つけたり、効果のないものを投与したりしてもよいなら、来週にでも使い始められるでしょう。しかし、そのようなことはできません」

インタビューの中で、ファウチ氏は秋のパンデミックの見通しと、学校を安全に再開する方法についても言及した。米国では累計感染者が540万人を超え、17万人もの人が亡くなっていることから、全体として、この国がこれまでたどってきた経過は決して喜ばしいものではないと言う。

　また、自分たちのような公衆衛生研究者に向けられる辛辣な批判に失望しているとの話もした。ファウチ氏は1984年にNIAIDの所長になったが、現在受けている反発は、1980年代前半にHIVが世界的に広がり、政治的批判が過熱した頃よりはるかに強いと言う。（参考記事：「「ウイルスが中国の研究所で作られたという科学的根拠はない」米国コロナ対策の第一人者ファウチ氏独占インタビュー」）

　ファウチ氏はCOVID-19に関する指針を示したことに対し、56すと脅され、「妻や子どもまで電話でひどい嫌がらせを受けています」とロバーツ氏に語っている。「信じられないことです。人びとの命と健康を守るために公衆衛生の原則を普及させようとしているときに、国内がこのように分裂し、人を脅迫しようとするとは。私の考え方とはまったく違います」

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/20/081700472/