カナダで 「謎の脳疾患」患者が続々現れる。記憶喪失、視覚障害、痙攣、抜け毛などの症状、致死性が高く、原因不明で治療法もみつからず

研究者たちは、病因を解明するために、ある環境や動物との接触、旅行歴、食生活など、広い視点から手掛かりを探している。水や食べ物、環境によって引き起こされている可能性もあるという。

患者は、神経症状を引き起こすことが知られている感染症の有無を血液検査で確認され、他にも自己免疫疾患、代謝異常、がん検査、遺伝子検査を受けているが、答えは出ていない。

現在指摘されている可能性は、この脳疾患が新しいプリオン病によって引き起こされるというものだ。また、環境有害物質が引き起こしたという可能性も指摘されている。アオコによって生成される毒物が引き起こした可能性もある。カナダでは、かつてある藻類から発生する酸によって魚介類の毒素汚染事件が起きている。
患者の不安と不充分な行政の対応

一方、州内の人々は、未知の病気が発生しているにもかかわらず、行政による住民への対応が不充分で透明性に欠くと、不満の声を漏らしている。

カナダの連邦公衆衛生局は、昨年12月に同疾患を調査対象とし、1月には症例の定義をまとめた。しかし、一般住民がその疾患のクラスターの存在を知ったのは、3月中旬に「CBC」が同州の医師に対して発信した同疾患についてまとめた通知について報道したのがきっかけで、行政からは何の働きかけもなかった。

さらに、カナダメディア「CBC」によると、この疾患の患者や家族も、医師や行政から充分な説明や対応を受けていないと不満を溜めている。

41歳のルック・ブランは、今年1月に謎の脳疾患を患っていると診断を受けた。数年前から原因不明の症状に悩まされていたという。初めは、部屋に入っても、どうやってそこに行ったかを忘れてしまうところから始まった。その後、方向感覚を失い、恐怖からパニック発作を発症していた。

診断を受け、長く感じていた不安や疑問が解消されると思っていたが、不安はさらに高まった。ルブランは、診断直後に公衆衛生局から「数日以内に」詳細な質問表を送ると言われた。しかし、4ヵ月以上経った今も、まだ連絡を受けていないそうだ。一方で症状は悪化している。

州内で同疾患の研究をリードする神経内科医マレロとも一度会い、診察を受けたが、症状は安定しており、不安神経症の薬を増やすだけで、半年後に再診すると言われたそうだ。それに対して、ルブランは、「6ヵ月のあいだに死ぬかもしれない」と反論した。しかし、マレロにはもっとひどい症状の人もおり、症状があっても長く生きる人もいるとだけ伝えられた。

医師も公衆衛生局も疾患についてあまり理解できていないのだろうとルブランも理解しているが、患者をはじめ、州の住民に対して不安を解消するために公衆衛生局は行動する責任があると彼は考えている。

「この病気は大きな謎に包まれており、私自身もいつまで完全に正気でいられるかわかりません」と彼は「CBC」の取材に語る。「心を落ち着かせるためにも、衰えたこの後、何が待っているのかを知りたいのです」