「平均賃金の7割」と認定された全盲女性　「一人前、認めて」訴え

13年前、図書館司書になる夢を抱いて進学を目指していた全盲の高校生が、自宅前の横断歩道で車にはねられた。一命は取り留めたが、記憶力や認知力が低下する高次脳機能障害などが残った。車の運転手に損害賠償を求めた訴訟では健常者と同等に働ける可能性があったと訴えたが、1審判決の認定は「全労働者の平均賃金の7割」だった。目が見えなくても、一人で生きていける力を身につけていたことを見てほしい。10日、広島高裁で控訴審判決が言い渡される。

　事故は2008年5月20日の朝、山口県下関市で起きた。当時、同県立下関南総合支援学校高等部2年だった新納（にいの）茜さん（30）＝同市貴船町＝は午前7時半ごろ、登校中に自宅前の横断歩道で車にはねられて意識を失った。頭の骨を折る重傷を負い、2カ月ほど意識のない状態が続いた。一命を取り留めたが、高次脳機能障害などの後遺障害が残り、難治性のてんかんを発症した。現在は両親と生活し、入退院を繰り返している。

　茜さんは早産で生まれ、出生時の体重は848グラム。未熟児網膜症を発症し、目が見えなくなった。母八栄子さん（53）は、茜さんが自立できるよう幼少期からあえて「目が見えんだけ」と厳しく接した。茜さんは「みんなと一緒と思われたかった。『かわいそう』と思われたくなかった」と当時の心境を振り返る。

　ピアノや英語を習い、小学校の中学年ごろから一人で路線バスに乗って通学した。買い物も一人で行き、分からなくなったら周囲に売り場の場所を遠慮なく聞いて、援助を求めた。「人の中にどんどん入っていくのが得意だった」と八栄子さんは言う。パソコンは音声読み上げ機能を使い自由に使いこなした。読書が好きで、点字図書館で司書として働く夢を抱き、情報処理の資格を取るため進学先を模索し、オープンキャンパスにも足を運んだ。

　しかし、突然の事故が茜さんの日常を奪った。けいれんを伴うてんかん発作はいつ起きるか分からず24時間の見守りが欠かせない。後遺障害の影響で嗅覚を失い、人物や場所を特定する重要なヒントだったにおいが感じられなくなった。自立して働いている自分の将来像も描けなくなった。18年、運転手の男性を相手に損害賠償を求めて山口地裁下関支部に提訴した。

　1審で原告側は、事故前の茜さんの能力などを踏まえ、将来働いて得られるはずだった収入（逸失利益）は全労働者の平均賃金に相当するとして、約5740万円が妥当と主張した。一方、被告側は、茜さんが事故で労働能力を失ったことは認めたが、全盲の茜さんは事故当時具体的な就職先が決まっておらず、他の障碍者と比べて高額な収入が得られた可能性が高いとは言えないと主張。身体障碍者全体の平均賃金を基に逸失利益を算出するのが妥当と反論した。

　20年9月、地裁下関支部は判決で、全労働者の平均賃金の7割（約4043万円）が相当とした。理由は「（茜さんが）潜在的な稼働能力を発揮して健常者と同様の賃金条件で就労する可能性があったと推測される」と認める一方、全労働者の平均賃金から減額する理由として、健常者と障碍者の間に現存する賃金格差や、茜さんが健常者と同様の賃金条件で就労できるまでに一定の年数が必要と想定される点などを挙げた。

　16年施行の改正障碍者雇用促進法は、障碍者のみに賃金や配置で不利な条件を付けたり、解雇したりすることが差別に該当するとしている。

　原告代理人の一人で、全盲の大胡田（おおごだ）誠弁護士によると、未成年の視覚障碍者の逸失利益を巡る裁判は茜さんが初めてといい「障害があっても一人前の人間として働く可能性があったと認めてほしい。障害の有無だけを見て将来の年収を測るのであれば、それは障害を理由とする差別だ」と指摘する。

　八栄子さんは「本当は事故の前に戻してほしい。目が見えないことを障害と感じさせないくらい努力してきたことを、裁判所はきちんと見てほしい」と訴えている。【佐藤緑平】

毎日新聞 2021/9/9 08:00（最終更新 9/9 08:00） 1620文字
https://mainichi.jp/articles/20210908/k00/00m/040/237000c

人より劣るんだから

この事案は将来どれほどの収入が得られると予想されるか、をお互いどのように証明するかが争点でしょう

メメントみたいになったのか

4043万円でも普通の人間に支払いできるのか？

全盲仲間か？