信濃毎日新聞が正論「アベノミクス弊害直視を」

株価が上昇し、為替相場は円安が進んだ。長期金利は上昇傾向を示している。「高市トレード」と呼ばれている。

経済の活性化に向けて積極的に財政出動する考えを示していることを受けた株高とみられる。同氏が重視する防衛・宇宙、サイバーセキュリティーなどの分野が注目され、円安の恩恵を受ける輸出関連を中心に上昇が目立った。

政局が混迷し高市政権が誕生するかは見通せない情勢だが、比較第１党が打ち出す政策は今後を左右する要素となろう。

良いことばかりでない。円安は輸入する各種原材料の価格を上昇させ、食料品などの物価高を一層深刻化させる恐れがある。

その円安進行も、原因は経済政策に関する同氏の姿勢だ。

高市氏は、景気重視の立場から強い金融緩和志向を持つ。それが日銀の判断に影響して利上げの見送りにつながるのではないか―との観測が広がった。利上げ見送りは投資家の円売りを招き、円安につながる効果がある。

総裁選後、同氏は「金融政策に責任を持たなければいけないのは政府だ」と強調していた。独立して金融政策のかじ取りを担うべき日銀への介入を、正当化する発言と受け取れる。

積極財政には支援対象を活性化させる効果がある。一方で需要拡大によるインフレを招く可能性があることも無視できない。

物価高対策の重要性を訴えている高市氏だが、自らの政策自体が物価高リスクを抱える皮肉な構図も直視すべきだろう。

金融緩和と積極財政を進める発想の根底にあるのは、２０１２年発足の安倍晋三政権が打ち出した「アベノミクス」だ。自身の経済政策を「サナエノミクス」と表現する高市氏は著書で、その基本路線はいわば「ニュー・アベノミクス」だと説明している。

アベノミクスは、金融緩和でつくり出した低金利の下で政府が借金を重ねながら大規模な財政出動を繰り返し、日銀が政府の借金である国債を事実上買い支えてきた政策とみることができる。

それを１０年以上続けて１千兆円を上回る国債残高を抱え、先進国で最悪の財政状況に陥っている現状を忘れてはならない。

長期金利の上昇は、野放図な政策が続くことへの市場の警鐘だと深刻に受けとめるべきだ。