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https://digital.asahi.com/articles/DA3S14926670.html

牛乳配達　Ｖ字回復して生き残った

「牛乳はいたつの合理化を考えるべきだわ」。井戸端会議らしからぬ話しぶりのかっぽう着の女性に、もう一人も調子を合わせる。サザエが「一本二十円じゃね！」と口を挟むと、２人はけげんな顔に。磯野家では玄関の箱から取り出し家の中に運ぶワカメに１本２円ずつお駄賃を払っていたのだ。

　この漫画が掲載された１９６７年２月は、牛乳の値上げ反対運動が盛り上がりつつあったころ。もはや人々の食卓に欠かせなくなった食品が、どんなプロセスを経て手元に届くのか。主婦たちも流通へ厳しい目を向け始めたことが、よく伝わってくる。

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　新聞によると当時の価格は１本１８０ｃｃ入りで１８円。ここから生産者に８円、小売店つまり販売店に６円５０銭が渡っていた。この配分に対し「配達に金がかかり過ぎる」と販売店をやり玉に挙げたのは時の農相。一方、団地や地域単位などで共同購入を導入して安く買う仕組みを整えた消費者団体は「生産者乳価をもっと引き上げ、その分はもうかっている大手乳業会社が吸収せよ」と主張した。

　時代は冷蔵庫が急速に普及する高度成長期のまっただ中で、スーパーや大手量販店の台頭を待つまでもなく、牛乳流通は大きな波にさらされた。「それ以後の１０年間で９回もの値上げ交渉があったと聞いています」と語るのは全国牛乳流通改善協会の橋本正敏会長（７１）。自身も約５０年前から北海道室蘭市で販売店を営んできたが、７０年代後半から８０年代に小売りの主導権をスーパーなどに奪われ、生き残りをかけて奮闘した。

　容器サイズを大きくしたり、毎日の配達を週３日に減らしたり。「大変苦しい状況で工夫を重ねました。同時に、このころから各乳業メーカーが、お客様の健康志向にかなう乳酸菌入りなどの商品の開発や改良を競い始めたんです」

　食品大手「明治」の８０年代の牛乳宅配軒数も、ピークだった７６年の約３５０万軒から３分の１にまで激減した。宅配事業そのものの存続が危ぶまれたが、９３年にカルシウムを強化した宅配専用牛乳を発売して大ヒット。２０００年代になって約２５０万軒とＶ字回復し、そのまま横ばいが続く。

　広報によると、宅配は今も瓶が主流で利用者は６０代以上が７割。「定期的に配られるので飲むことが習慣化され、健康が保てる。１００年近く前から続いてきた『牛乳配達』はいまや『健康配達』に進化した」と胸を張る。なるほど、かつてモノを運んだ流通の仕組みは、別の「コト」に置き換わって届けられ、生き延びたのだ。

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　ところで昨春以降、ステイホームが叫ばれる都市部を中心に宅配サービスの需要は高まった。飲食宅配代行「ウーバーイーツ」の大きなバッグを背負って自転車やバイクを走らせる配達員の姿は見慣れた光景だ。自分の都合で選べる柔軟な働き方は、コロナ禍で職を失った人の受け皿という面もある。

　山梨県の実家にいた映画監督の青柳拓さん（２８）も運転代行の仕事が成り立たなくなり、「稼がねば」と昨年３月に上京。ウーバーの配達員として都心を疾走、ハプニングにも見舞われる自分にカメラを向けたドキュメンタリー映画「東京自転車節」がこのほど完成し、７月に公開される。「デリバリーはこの１年で普通の人の生活に浸透した。とても細い線かもしれないが、僕自身は熱い思いを込めて、お店と人をつなげるために走っています」

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　長く絶版だった姉妹社版『サザエさん』全６８巻（各巻税込み８８０円）が長谷川町子生誕１００年を記念して復刊しました。書店やＡＳＡでご購入になれます。